大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)14号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 当裁判所は、次に説示するとおり、本件審決は、本願発明と引用例記載のものとの構造及び作用効果上の差異を看過誤認し、誤つた結論を導いた違法があり、取り消されるべきものと判断する。

(一) 第一発明について

1 引用例は、外方主体補強包体、内方主体包体、これに気密に面する適当なライナー及び適当な端部閉塞部材からなる生パンの包装容器に関するものであるところ、その包装を開き内容物を閉鎖状態から解放するに当たつては、事前に必ず外方主体補強包体の一部をめくつて除去することが必要であり、このため外方包体にはわざわざ螺旋状に準孔あき線を配設し、この線に沿つて外方包体を引き裂いた後、これを室温下又はそれよりも高温度下に置くと、包装内の圧力が十分に高まり内方包体及びライナーは継目の全長に沿つて破れ、さらに包装を両端で捩つて内容物を取り出すか、又は外方包体を剥いだ後、直ちに包装を開くことを望む場合には、内方包体の衝き合せ縁の継目の都合のよい点でライナーを手で破り、さらにライナーを螺旋状に裂いて内方包体の衝き合せ縁を分離し、包装を両端で捩つて内容物を取り出しうる構造としたものであることを認めることができ、叙上認定の事実に徴すれば、引用例においては、外方主体補強包体は、これをそのままにした状態では、多少の外圧が加わつても、決して内方包体が破れることがない程度の強度を有するように構成されたものであると認めるのを相当とし、この認定を覆すに足る証拠はない。

2 一方、引用例記載のものが内容物を取り出すに当たり、外方包体を剥がさねばならない手間を要するに対し、第一発明は、まさにこの手間を省き(このことは、家婦にとつて十分実益を有するものといえる。)、簡単迅速に外方包体を引き裂くことなく、包装を開きうる生パンの容器を得ることを目的としたものであり、このため、第一発明は、生パンからの湿気及び油気を封断するための内張(引用例のライナーに相当)を内面に有するほぼ円筒形のファイバー材からなり、容器のほぼ全長にわたつて延在し、かつ、容器のほぼ全周をとりまくようなピッチを有するような、ほぼ螺旋形の分離線を有し、該分離線以外においては破裂しないような十分な強度を有する主体層(引用例の内方包体に相当)と、該主体層の周囲に一体に重ね合わされ、もつて、主体層の周辺を補強し、かつ、主体層とともに上記容器内に封入された生パンによる外向破裂圧力に耐える補強外層(引用例の外方包体に相当)とを備え、該補強外層が上記分離線に重なり、この分離線上に在る該補強外層の所定標的区域に人為的衝撃を加えた時、上記分離線の全長に沿つて、ほぼ同時に破断するような材料で製作され、さらに上記容器の両端をそれぞれ閉鎖する一対の蓋を備えた容器の構造としたものであり、この場合、所定標的区域に衝撃を加えると、主体層がその分離線に沿つてその全長にわたり破断し、それとともに補強外層及び内張層も主体層の分離線全長に沿つて破断することにより、所期の目的を達したものであることを認めることができる。

3 しかして、右認定のように第一発明は、補強外層の強度を上記目的に沿う程度のものとし、また、人為的衝撃は所定標的区域にのみ加えることとした点において、引用例とはその技術思想及び構造、作用効果を全くに異するものというべきであり、第一発明の解決手段が引用例の技術思想から予測しえないものと認められること、及び第一発明の優れた作用効果に徴すれば、第一発明が引用例から容易になしうる程度のものとは到底解することはできない。

被告は、引用例において、補強外層を取り除かない状態、すなわち、容器の強度が生パンが温められた場合に生ずる内部圧力より少し大きい場合でも、分離線に力を加えれば容器を開封できる旨主張するが、前説示のとおり、引用例はもともとこのような開封を予定しておらず、分離線に指圧をかけることにより開封する場合においても、あくまでも補強外層を引き裂くことを前提にしている点にかんがみると、被告主張のように解することは困難は困難であるし、また、そのようなこまた、そのようなことは、引用例から予測しうる範囲を超えるものといわざるをえない。その他の被告の主張は、前説示に照らし、採用するに由ない。

(二) 第二発明ないし第四発明について

前記当事者間に争いがない第二発明ないし第四発明の各要旨によると、第二発明ないし第四発明は、第一発明を特定発明とし、これに他の要件を加えたものであることが明らかであるから、第一発明が叙上上認定のとおり特許特許要件を具備する以上は、第二発明ないし第四発明が引用例から容易に発明しうるものといいえないものであることは明白であり、したがつて、本件審決が第一発明が特許要件を欠くことを前提にして第二発明ないし第四発明が引用例から容易になしうるものとしたのは、その判断を誤つたものというべきである。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。

(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)

< 注1>一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和三十五年十月十八日、「生パンを収容するための容器」(特許出願当初の名称「包装生パン及びそれを開く方法」」につき特許出願をしたところ、昭和四十年八月二十四日、拒絶査定を受けたので、同年十二月二十三日、これに対する審判を請求し、同年審判第八、二八五事件として審理されたが、昭和四十三年八月二十八日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年九月二十五日原告に送達された(出訴のための附加期間三か月)。

< 注2>本願発明の要旨

次のとおりの「生パンを収容するための容器」

(一) 生パンを収容しかつこの生パンを収容された形のまま取出し得るように構成された容器にして、上記生パンから湿気及び油気を封断するための内張を内面に有するほぼ円筒形のファイバー材からなり上記容器のほぼ全長にわたつて延在しかつ上記容器のほぼ全周をとりまくようなピッチを有する如きほぼ螺旋形の分離線を有し該分離線以外においては破裂しないような十分な強度を有する主体層と、該主体層の周囲に一体に重ね合わされ以つて主体層の周辺を補強しかつ主体層と共に上記容器内に封入された生パンによる外向破裂圧力に耐える補強外層とを備え、該補強外層が上記分離線に重なりこの分離線上に在る該補強外層の所定標的区域に人為的衝撃を加えた時上記分離線の全長に沿つてほぼ同時に破断するような材料で製作され、更に上記容器の両端をそれぞれ閉鎖する一対の蓋を備えた容器(以下「第一発明」という。)。<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!